着物に想いをのせて

着物に想いをのせて

私の知り合いにとある朱色の振袖をお持ちの方がいます。

 

その方の話ではその振袖はその方の祖母に当たる方が娘へ、
つまりその知り合いの方のお母様のために塗った着物なのです。

 

見せていただいたその着物は艶やかな朱色に色とりどりの
刺しゅうが施してある柄で、ただやはり知り合い本人が
言うとおり着物の柄自体は時代を感じさせるような
昔ながらのものなのですが美しい着物でした。

 

彼女はその振袖を成人式の時に着ることに最初どうしても
抵抗を感じていたようなのです。

 

周囲の方は新しく美しい色の着物を着ているのに、自分は
流行の柄や色のものが着られないのかとがっかりしていたとのこと。

 

結局納得はしていないものの、成人式の際にはその着物を
着て出席したのだそうです。

 

その時は周囲には「この着物どうしたの?」と聞かれると
「母のおさがりなんだよ〜なんか時代を感じるよね〜」と
照れ隠しをしたり文句を言ったりしてその場を濁したのだとか。

 

その時は綺麗な着物だけどなといった感想しか私も
持っていませんでした。

 

その知り合いの方なのですが、最近その着物に対しての
想いが変わったと話していました。

 

その頃、ご自分のお子さんを連れて介護の手伝いに
ご実家によく行っていたのですが、その祖母の方が
亡くなったのです。

 

その頃から自分の子供にもいつかこの振袖を着てほしいと
思うようになったそうです。

 

介護の手伝いに帰っていたとずっと思っていたそうなのですが、
そうではなくご自分のお子さんの成長を見てもらっていたような気が
すると話されていました。

 

4代にわたって継がれる着物のことを思って私はちょっと
うらやましくなりました。

 

着物そのものよりもそれに寄り添う家族の想いが垣間
見えたからです。

 

着物を大切に持っていらっしゃる方それぞれにドラマがあると
思いますが、そのドラマが語られることというのはあまりないですよね。

 

この方の着物にはその時々の気持ちや想いなんかがいっぱい
詰まっているんだなと感じました。

 

介護の手伝いをしている最中は家族の中でもいろいろあったようで
話したくないようなこともあったようですが、あの着物のことを
話していた彼女はとても幸せそうに見えました。


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